車は所有すべきか、それとも借りるべきか──
滋賀・草津でプリウスを借りた一日の記録
かつて「車を持つ」ことは、大人としての証明であり、家族の足でした。
しかし令和の今、私たちの前に静かに差し出される問いがあります。
──本当に、所有する必要があるのか。
その答えを探すために、私は休日の朝、トヨタレンタカー草津西口店のカウンターに立ちました。
9時から20時まで。保証と燃料代まで含めて14,224円。
鍵を受け取ったのは、最新世代のトヨタ・プリウス 2.0(2023年式/走行32,000km)。
この一日は、単なる移動ではなく、「所有」と「選択」を見直すための実験でした。
レンタルという合理──“固定費を可動化する”という戦略
まず胸に落ちたのは、コストの透明感です。
所有すれば、車検・保険・税金・駐車場代といった固定費が、容赦なく家計のベースを押し上げます。家計運営では「固定費を見直すことが年単位で効く」というのが定石。支出は定期的なもの(固定費)と臨時のものに分けて捉える──この原則に照らすと、クルマの“固定費の塊”は強烈です。レンタルはそれを“必要な時だけの変動費”に変換する手段だと、ハンドルを握りながら実感しました。
この日の14,224円には、燃料も各種保証もコミコミ。返却前にガソリンスタンドへ寄る時間も、レシート管理も要らない。限られた可処分所得を「今の価値」にまっすぐ投じられる。その思想は、実収入から税・社保を差し引いた後に残るお金(可処分所得)をどう配分するか、という家計管理の芯と響き合います。
プリウスが描く“静かな速さ”──移動は体験へ
革巻きステアリングに触れた瞬間、先入観は塗り替えられました。
2.0Lエンジン×モーターの統合は、静粛の中に確かなトルクを湛え、低重心が路面を吸い付くように押さえ込む。フロントのシャープな傾斜とタイトなリア。闘牛のスーパーカーを思わせるシルエットが、湖岸道路の鏡面に映る。
この日、私は220kmを走りました。静粛性、乗り心地、そして最新のレーダークルーズコントロールが、疲労を“雑音”のように消していく。移動は「消耗」ではなく、確かに「体験」へと姿を変えます。
「所有か、レンタルか」を“お金の言葉”で訳す
家計の言葉に置き換えるなら、所有は固定費の引き受け、レンタルは変動費の選択です。固定費は毎月のベースを押し上げ、可処分所得を恒常的に圧縮します。だからこそ家計の基本は、固定費を軽くすること。そして必要なときにだけ変動費として支出を起こすこと──レンタルはその設計に合致します。
さらに忘れてはならないのが税と保険です。税は私たちの暮らしを支える公共サービスの財源であり、その設計は“公平・中立・簡素”が望ましいとされる──自動車周辺の税も、その体系の中に位置づけられています。
保険について言えば、日常のリスクは“回避・損失制御・移転・保有”という順序で扱うのがリスク・マネジメントの基本。運転そのものは回避できないとしても、予防(損失制御)や保険での移転は設計できる。自動車では、自賠責でカバーできない部分を任意保険で補うという発想がそれに当たります。
つまり、「所有」は税・保険・維持を固定化する選択、「レンタル」は必要時だけに移転(レンタカー会社の包括保険・メンテ設計に乗る)する選択。あなたの収入・家族構成・ライフイベントの局面次第で、最適解は変わるのです。
私の現実、そして判断
わが家の自家用車は、妻の通勤に不可欠です。
その前提がある以上、ゼロ・カー生活は現実的ではない。
それでも、最新モデルを“必要な日だけ”借りるという選択肢は、所有という固定観念を大きく揺さぶりました。試乗の延長ではなく、実務的な運用として。
家計は「定期」と「臨時」で設計する。ボーナスのような臨時収入を当てにせず、臨時支出に備える。毎月の固定費はできる限り軽く。車は──必要な局面だけを切り出し、変動費として買う。その考え方は、封筒予算や家計アプリで支出を見える化する日々の習慣とも整合します。
結論──“数字”の先にある自由
「持つべきか、それとも借りるべきか。」
この問いに唯一の正解はありません。
けれど、金融リテラシーとは、まさにこうした分岐点で数字を言語にし、リスクを設計し、自分の未来に最適な配分を選ぶ力です。
所有は誇りであり、責任です。レンタルは自由であり、選択です。
滋賀の湖岸を滑ったプリウスの静かな速さは、私にこう囁きました。
──あなたの時間とお金を、もっと自由に設計していい。
その日、私は14,224円で“固定費”を“体験”に変えました。
そして、家計という名の企業のCFOとして、次の一手を静かに決算しました。













