未来家計譚

高卒 ✕ 地方会社員でもできたリアル家計管理術

昼の南草津に、小さな非日常を。「情熱ホルモン」で楽しむ七輪ランチ

JR南草津駅東口から徒歩5分。

滋賀県草津市野路に暖簾を掲げる「南草津酒場 情熱ホルモン」は、その名からは夜の喧騒と熱気を想起させながらも、実は真価の一端を昼にこそ感じさせてくれる一軒です。

ホルモン、焼肉、居酒屋──。

その三つの表情を併せ持つこの店は、ランチタイムになると、肩肘張らずに楽しめる気軽さのなかに、確かな満足感と小さな昂揚を巧みに忍ばせてきます。ただ食事をするだけでは終わらない。そんな“体験としてのランチ”を、実に自然体で差し出してくれるのです。

昼営業は11時30分から15時まで。

駅から近いという利便性もあり、「今日は少しだけ、しっかり食べたい」──そんな日に、この店は実に頼もしい存在になります。ひとりでも気兼ねなく入れる間口の広さがありながら、席についた途端、日常のリズムがわずかに変わる。そんな予感を漂わせる空気があります。

今回は、「情熱ホルモン定食 」1,089円(税込)のレビューです。

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5種のお肉を七輪で焼きながら、ごはん、スープ、キムチ、ミニサラダまで付く定食構成。しかもごはんはサイズ変更無料です。価格だけを見れば親しみやすいランチです。しかし実際に体験してみると、その中身は想像以上に立体的で、食べ進めるごとに満足感が静かに積み上がっていきます。

この店のランチが印象に残る理由は明快です。

それは、昼の食事でありながら、“焼く楽しさ”をきちんと主役に据えていることです。目の前の七輪で肉が焼ける音、立ちのぼる香ばしい煙、じわりと食欲を刺激する脂の香り。その一つひとつが、慌ただしい日常のなかで少し鈍くなりがちな感覚を、鮮やかに呼び覚ましてくれます。

焼き上がった肉を頬張り、白ごはんを追いかける。

そこへ生ビールを流し込めば、昼であることを一瞬忘れるほどの解放感が生まれます。それは決して大げさな贅沢ではありません。しかし、こういう時間こそが、人の気持ちを確かに整えてくれるのだと思います。手頃であることと、満たされること。その両立は、案外むずかしい。けれどこの店は、それを実に軽やかにやってのけます。

南草津で、価格以上の満足感と、ほんの少しの非日常、そして食事がもたらす確かな高揚感を求めるなら、「南草津酒場 情熱ホルモン」は十分に選ぶ理由のある一軒です。

昼の街に、こんなにも熱を帯びた時間がある──そのことを、静かに教えてくれる店です。

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【2026年4月再訪】ホテルボストンプラザ草津びわ湖「リバティー」プレミアランチコース実食レビュー

2026年4月再訪。

草津駅前という、きわめて利便性の高いロケーションにありながら、一歩足を踏み入れた瞬間、日常の景色が静かに切り替わる──。

ホテルボストンプラザ草津びわ湖の「オールデイダイニング リバティー」は、まさにそんな一軒です。

開放感あふれる吹き抜け、そしてアメリカントラディショナルを基調とした端正なインテリア。

カジュアルでありながら、どこか自然と背筋が伸びる。ホテルダイニングならではの品格と心地よさが、この場所には確かに息づいています。

そんなリバティーで、春という季節を優雅に味わわせてくれるのが、

「春のプレミアランチコース 〜シェフが奏でる特別なランチコース〜」税込3,500円です。

提供期間は2026年3月1日から5月31日まで。

さらに、1日10食限定、前日12時までの事前予約制という条件が、このコースにほどよい特別感を添えています。

予約はホームページからスムーズに行えますが、人気の高さもあって、1週間前の段階ではすでに埋まっていることもあります。

また、店内ではサラダバイキング付きの通常ランチを楽しまれる方も多いため、落ち着いた時間と席をしっかり確保したいなら、来店時間も含めて余裕を持って予約しておきたいところです。

このコースの幕開けを印象づけるのは、カクテルグラスの中にまるでシャボン玉のように煙を閉じ込めた、演出性の高いノンアルコールの食前酒です。

そして続くのが、3段のティースタンドに美しく盛り付けられた季節の前菜。

その姿は、まるでアフタヌーンティーのような華やかさをまといながら、同時にホテルシェフの繊細な感性を静かに物語っています。

食事でありながら視覚でも魅了してくれる──。

これは単なるランチではありません。春という季節を一皿ずつ丁寧に味わう、まさに“小さな非日常”です。

今回は、デザートと珈琲・紅茶を含む全9品の中から、特にリピートしたくなった2品をご紹介します。

 

1.カニライスのイカマリネ季節の野菜

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前菜の一皿です。

やわらかな甘みをまとったイカが実に印象的で、見た目の美しさと味わいの完成度がきれいに重なり合う一品でした。ひと口目から、このコースの世界観を鮮やかに伝えてくれます。

 

2.真鯛のポワレ 紫蘇チーズ焼き

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カリッと香ばしく焼き上げられた真鯛の皮目がまず印象に残ります。

そこに重なるクリームソースがまた見事で、思わずパンで最後まで丁寧にすくって味わいたくなるほど。上品さと満足感をしっかり両立した、完成度の高い魚料理でした。

記念日や女子会、自分へのご褒美。

料理の提供テンポも良く、ご夫婦やカップルで過ごす、少し贅沢な昼の時間にもふさわしいコースだと思います。

日常のランチを、ほんの少し上質な時間へと引き上げてくれる。

草津の春に、ホテルシェフが奏でるプレミアなひととき──それが、この「春のプレミアランチコース」です。

魚料理と肉料理の両方を楽しめる構成でありながら、税込3,500円という価格に着地している点も見事です。

その満足感は、単なる“コストパフォーマンスの良さ”という言葉だけでは片づけられません。

リバティーの「春のプレミアランチコース」は、まさに“価格以上の余韻”を楽しむためのランチ。

食後に残るのは満腹感だけではなく、春をひとつ味わい切ったような、静かで豊かな余韻なのです。

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【2026年4月再訪】栗東・ラ・リベリュール。記憶の奥に残る、小さなフレンチの幸福論

2026年4月再訪。

滋賀県栗東市安養寺。

JR草津線・手原駅から徒歩10分ほど。日常の喧騒から少しだけ距離を置いた場所に、ひそかに佇むフランス料理店があります。

その名は、La Libellule──ラ・リベリュール。

フランス語で「トンボ」を意味するこの店名には、幸福を願うモチーフ、そして前へと進む縁起の良い存在という想いが込められています。

店内は、わずか6席のカウンターと、掘りごたつ席を備えた小さな空間です。

決して大きなお店ではありません。けれど、その小ささが、料理人の目線、空気の温度、そして一皿ごとの余韻を、より濃密なものにしてくれます。

予約は電話で行います。

席数が限られているため、予約が埋まっていることもしばしばあります。訪問を考える際は、候補日を複数用意して電話をされると安心です。

 

今回のランチは、魚料理と肉料理の両方を楽しめる「お昼のおまかせコース」税込7,260円。昼の時間に、本格的なフレンチをしっかりと堪能できる内容です。

デザートと珈琲・紅茶を含む全9品の中から、特に心に残った3品をご紹介します。

 

1. 人参のムース 柑橘ジュレのせ

まず心をつかまれたのが、人参のムースです。

クリーミーでなめらかなムースに、甘酸っぱい柑橘のジュレが重なります。

その瞬間、味覚が静かに目を覚ますような感覚があります。

普段の食事ではなかなか体験できない、繊細で華やかな味わいです。

まるで味覚が、日常から非日常へと静かに連れ出されるような感覚です。

「ああ、今日は特別な時間が始まったのだ」と、──そう思わせてくれる、コースの幕開けにふさわしい一皿でした。

 

2. ホタテのガーリックバター焼き

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これはもう、静かな衝撃です。

香ばしく焼かれた小ぶりなホタテに、ガーリックバターの豊かな香りが重なり、口の中で旨みが一気に広がります。

あえて親しみやすく表現するなら、サイゼリヤの「ムール貝のガーリック焼き」を思い起こさせる方向性があります。

けれど、ここで展開されるのは、そのはるか先にある大人の味わいです。

違いは、余韻です。

そして、ワインとの距離感です。

料理が単体で完結するのではなく、グラスの中の一杯と出会うことで、さらに奥行きを増していきます。

手元には、ソムリエセレクトのオレンジワイン。

ガーリックの香り、ホタテの甘み、バターのコク、そしてワインの複雑なニュアンス。

それらが重なった瞬間、テーブルの上に小さな祝祭が生まれます。

これは、ただのガーリックバター焼きではありません。

ワインと出会うために設計された、非常に幸福な一皿です。

 

3. 鱧のソテー ポルチーニソースとトリュフ

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そして、今回のコースで最も深く心に残ったのが、鱧のソテーでした。

鱧という繊細な魚に、香り高いポルチーニソース。

そこへ、ビネガーの効いた焼き茄子が寄り添います。

さらに、トリュフの香りが静かに立ち上がる。

この一皿は、要素を分解して味わう料理ではありません。

鱧、ソース、焼き茄子、トリュフ。

すべてを一緒に口へ運び、ゆっくりと咀嚼することで、初めて完成する料理です。

噛むほどに、味が立ち上がる。

香りが広がる。

酸味が輪郭をつくる。

旨みが静かに沈んでいく。

そして、そこにワインを合わせた瞬間、時間の流れが少しだけ変わります。

幸福とは、何か大げさなものではなく、こういう瞬間のことを言うのかもしれません。

一皿と一杯が出会い、食べ手の記憶の中に、静かに残っていく。

その余韻こそが、ラ・リベリュールの真骨頂です。

 

そして、ラ・リベリュールを語るうえで忘れてはならないのが、ドリンクの存在です。

ソムリエであるシェフの奥様により、フランスを中心としたボトルワイン、グラスワイン、シャンパーニュに加え、ノンアルコールアペリティフ、宇治茶、果実ジュースまで幅広く揃えられています。

アルコールを楽しむ方も、そうでない方も、それぞれのスタイルで料理とのペアリングを楽しめる。

この懐の深さも、ラ・リベリュールの大きな魅力です。

ただし、今回は日曜日の訪問。

お子様の保育園のご都合もあり、奥様はご不在でした。ペアリングのワインを選ぶ時間を楽しみにしていた私としては、次回はその点も踏まえて訪問したいところです。

 

ラ・リベリュールは、ただ食事をする場所ではありません。

素材と真摯に向き合うシェフの誠実さ。

小さな店内に流れる、静かで温かな空気。

そして、料理を通じて、大切な人と過ごす時間の価値を思い出させてくれる場所です。

忙しい日々の中で、私たちはつい、食事を「済ませるもの」として扱ってしまいます。

けれど、この店に来ると、食事とは本来、時間を味わう行為なのだと気づかされます。

栗東で、少し背筋が伸びるフレンチを。

けれど、決して肩肘を張りすぎない幸福な時間を。

ラ・リベリュールの一皿の先にあるのは、満腹感だけではありません。

記憶に残る体験。

また訪れたくなる余韻。

そして、日常へ戻ったあとにも、ふと心を温めてくれる小さな光です。

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炭火割烹 蔓ききょうで味わう琵琶湖の恵みとジビエ──石山の蔵で出会う本物の滋味

滋賀・大津。石山駅から徒歩15分ほど、瀬田唐橋のたもとに静かに佇む「炭火割烹 蔓ききょう」は、琵琶湖の恵みと山のジビエを、実に端正なかたちで味わわせてくれる一軒です。
大正二年に建てられた蔵を改装した空間には、ただ古いだけではない、時間の厚みがあります。その積み重ねまでもが、ここでの食体験に確かな奥行きを与えているように感じられます。
店で扱われるのは、契約する滋賀のハンターから届くジビエ、琵琶湖の四季を映す湖魚、淡海地鶏、そしてこだわりの野菜など、いずれも顔の見えるつくり手から託された食材ばかりです。
素材の背景にまできちんと物語がある。そんな誠実さが、この店の魅力をより一層際立たせています。


今回は、ランチで「ジビエと琵琶湖の恵み、厳選季節野菜コース」をいただきました。
予約は食べログからのネット予約が便利です。
ランチメニューは、基本セットが税込2,750円で、選ぶメインによって追加料金が変わる仕組みです。今回はカウンター席を予約しました。
デザートを含む全8品のコースの中から、とりわけ心を動かされた3皿をご紹介します。

 

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まず一皿目は、お刺身です。
穴子、鰆、のどぐろという顔ぶれで、穴子は湯引き、鰆とのどぐろは皮目を炙り、ほどよい塩味でいただきます。正直、ジビエを目当てに訪れた店で、ここまで刺身に感動するとは思っていませんでした。
火入れは実に絶妙で、穴子の半生ならではのふわりとした食感、そして鰆とのどぐろに宿る脂のなめらかさには、思わず唸らされます。

 

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二皿目は、天ぷらです。
薄衣で軽やかに仕立てられ、油も実に端正です。山菜と肉厚の椎茸が、サクッとした心地よい食感とともに供されます。
なかでも椎茸は、まるで肉を食べているかのような満足感があり印象的でした。ややほろ苦いコゴミとセリは、日本酒との相性も見事で、杯が自然と進みます。 

 

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そして三皿目は、滋賀県産いのししと琵琶湖天然大鴨(半身)の炭火焼きです。
いのししは、いわゆる獣臭さとは無縁で、上品な脂の甘みと繊細な肉質が際立ちます。力強さがありながら、どこか洗練されてもいる。そんな贅沢な満足感があります。
一方相方が注文した大鴨は、まさにジビエの醍醐味そのものです。
半身という迫力あるボリュームもさることながら、弾力のある肉質は、噛みしめるたびに旨みが押し寄せてきます。さらに、鴨のハツ、砂ズリ、レバーまで添えられており、一皿の中で豊かな表情を楽しめる構成になっています。


この店の魅力は、ほとんどの食材を炭火で焼き、塩でいただくという潔いスタイルにもあります。
それは技巧を誇示するためではなく、素材そのものが持つ力を、静かに、しかし確実に際立たせるための引き算なのだと思います。
ひと皿ごとに、滋賀という土地の豊かさと、生産者への深い敬意が感じられる構成でした。


日本酒は、滋賀の上原酒造の銘柄が充実しています。
今回お任せでいただいた「杣の天狗 純米吟醸」は、にごり生酒らしいやわらかな口当たりと、花を思わせる華やかな香りが印象的でした。思わず、手元に一本置いておきたくなるような存在感のある一本です。

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食事の提供テンポも良く、お酒を楽しみながらでも滞在時間は1時間30分ほどでした。
過不足のないリズムで料理が運ばれてくるため、ランチとしても非常に満足度の高い時間になります。
少しだけ背筋を伸ばしながら、それでいて肩肘は張らず、本物の味と静かに向き合う。
そんな時間を求める方にこそ、この「炭火割烹 蔓ききょう」は深く刺さる一軒だと思います。
個人的には、定期訪問を確信した店となりました。

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美意識に試される昼──南草津「グリーチネ」の静かな審判

南草津駅から西へ、徒歩およそ15分。
スーパーフレンドマートを大きく回り込み、路地の突き当たりへ──白い建物の2階にあるのは、看板の主張ではなく“沈黙の自信”で存在を語るイタリアン、「グリーチネ」です。


この店の名は、食通の間で囁かれるだけではありません。
「料理人が行く店」。その言葉には、流行や映えとは無縁の、技術と矜持だけが許される領域の匂いがあります。いつもお世話になっているフレンチ「ラ・リベリュール」のご夫婦も訪れたことがある──そう聞いた瞬間、私の中で期待は“料理”ではなく、“体験”へと変わりました。
予約は電話、またはGoogleのテーブルチェックから。ネット予約にはクレジットカード登録が必要です。
テーブルはたった3つ。シェフのご主人と、ソムリエの奥様が二人三脚で切り盛りする小さな箱。席数の少なさは、希少性を演出するためではなく、信じる品質を守るための“覚悟”なのでしょう。キャンセル対策という合理性すら、ここでは儀式の一部に見えてきます。


今回は昼のコース(税込8,800円)に、ワインペアリングM(税込7,920円)を重ねました。さらにシェフのハンドドリップ珈琲(+220円)。茶菓子とデザートを含めた全11品。
──準備は整いました。あとは、私の価値観が試される番です。

 

結論から言えば、私はここで、少し意外な自分に出会いました。
「私は、イタリアンにここまでの上質を求めていないのだ」と。
料理が悪いのではありません。むしろ逆です。
真面目で、誠実で、素材の選択から仕立てまで、一切の妥協がない。カトラリーも器も、店内の空気も、すべてが同じ方向を向いている。整いすぎているほどに整っている。店内を彩る油絵は娘様が描かれたものだそうで、その静かな彩りが“家族の物語”まで添えてきます。
ただ──この店は、料理だけを出していないのです。
“過ごし方”を出している。
コートの脱ぎ方に始まり、店内での振る舞い、ペアリングの選択。
こちらが選んでいるつもりで、いつの間にか選ばされている。
丁寧で、洗練されているのに、どこか逃げ道がない。そんな“導き”がありました。好みが分かれるのは、まさにそこです。
そして、すべての料理が提供された後。
シェフがテーブルを回り、感想を求められます。
この瞬間、空気は変わります。
こちらは客でありながら、同時に“評価される側”にもなる。
料理は極めてシンプルな調理法と味付けで構成されています。だからこそ、感想には“経験”が要る。自分の好みを理解し、比較対象を持ち、言葉を選び抜いて伝える力が要る。
軽い「美味しいです」では、たぶん届かない。
褒め方さえ、こちらの成熟度を問われる。
私は──逃げました。
「グリーチネ」のシェフが「ラ・リベリュール」のシェフと同じ高校の同級生、という話題にすり替え、場をつなぎました。正直に言えば、私は“美味しさ”ではなく、“自分の言葉の浅さ”に追い詰められていたのかもしれません。
それでも、救いのように心に残ったものがあります。ワインです。
「トラミン ソーヴィニヨン・ブラン」。
軽やかで、キレのある辛口。けれど印象を決定づけたのは、花のように鮮やかな香りでした。香りが立った瞬間、視界が少し明るくなる。あの感覚は、久しぶりでした。食前酒としてもよし、フルーツと合わせてみたくなる──“家に連れて帰りたい一本”です。


帰りは、ご夫婦そろって玄関前までお見送り。
背筋が伸びる。姿勢が正される。
この店は、お洒落で洗練されているだけではありません。客の美意識まで測ってくる。
そして私は、その測定の余韻を抱えたまま路地を出ました。
「良い店」とは何でしょう。
味か、空間か、サービスか。
グリーチネは、その答えを一つに絞らせません。むしろ──
“あなたは、どこまで上質を望む人ですか”
そう問いかけてくる店として、強烈に心に残りました。

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蔵の扉を開けた瞬間、日常が静まる──草津「馳走 とし藤」昼おまかせ

草津の街には、ときどき「静けさそのもの」を料理にして差し出す店があります。
草津駅から商店街通りを南へ約10分。人の流れから半歩だけ外れ、左の路地へ身を預けた瞬間──景色が切り替わります。蔵を改装した和食店、「馳走 とし藤」さん。ここは、日常の雑音を一度預けてから入る場所です。

夜のおまかせで三度、心を整えてもらいました。
そして今回は6年ぶり。しかも、当時は存在しなかった“昼のおまかせコース”(税込6,600円)。
「進化」を確かめる、というより──“再会”に近い感覚で扉を開けました。

薄暗い店内。カウンターとテーブル席が、過不足なく静かに並びます。
上品、という言葉が似合うのは相変わらず。けれどそれは、ただ綺麗という意味ではありません。
ここで過ごす時間は、食べるほどに姿勢が正され、呼吸が深くなる。上質とは、味覚ではなく「人間の輪郭」を整えるものなのだと、思い知らされます。

今回はデザートまで含めて全7品。
その中で、心を射抜かれた一品を中心に──記憶に刻まれた余韻を書き留めます。


1. 刺身盛合せ

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旬の食材を、最適な仕事で。
淡白なものから濃いものへ──その“順序”すら、味の物語になります。舌の上で、ページをめくるように味わいが深まっていく。

特に忘れられないのが、写真左上。
ポン酢のジュレの奥に、ひっそりと隠れていた ほたるいか
噛んだ瞬間の歯切れの良さ。次の瞬間、旨みがじわりと広がり、最後に“海の余韻”だけが残る。
主張は控えめなのに、気づけば視線も意識もそこへ戻ってしまう──そんな一口でした。

そして写真右上。平目のタタキに添えられた
驚いたのは、生臭さが一切ないこと。
濃厚なのに、重くない。深いのに、濁らない。
その旨みが舌に触れた瞬間、日本酒が「答え」として現れます。盃が進むのではなく、進まされる。そういう味です。


2. 澄まし汁

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出汁と食材の旨みが、真正面から迫ってきます。
丁寧な下処理が、季節の食材の輪郭を際立たせる。
派手ではない。けれど、この一杯があるだけでコースの格が決まる。
“静かに圧倒する”という言葉があるなら、まさにそれです。


3. 甘味

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「とし藤」さん名物の甘味は、選べます。
そして、すべて選ぶこともできる。この一言が、ずるい。
どれも丁寧で、どれも自信があるから言える選択肢。
組み合わせを楽しむ事もでき、食後に「満たされた」と言い切れる着地点が、最初から設計されているのです。


帰り際、店主が見えなくなるまで丁寧にお見送りくださいました。
最後の一礼までが、ひとつの料理のようでした。
上質な空間と料理は、胃袋ではなく“姿勢”に効きます。背筋が正されるのではなく、正したくなる。そういう力があります。

そしてもうひとつ、記憶に強く残ったのが──滋賀の日本酒 「七本槍」の生酒
濃厚で深い旨み。日本酒初心者の私たちでも「これは違う」と分かる明確さがありました。

普段は、コース料金より酒代が高くなりがちな私たちですが、今回は三種。
理由は単純です。料理が、きちんと料理として成立しているから。
お酒のアテに寄りかからない。寄りかからせない。
その潔さに、日本料理の「正しさ」を見せつけられた気がしました。

また、季節が変わる頃に。
この蔵の扉を開ける理由は、きっと、何度でも生まれるのでしょう。

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草津に潜む“静かな覚悟”──割烹「お料理まつ瀬」で日本酒と余韻を味わう

草津の夜に、ひとつ“気配の良い店”がある──そう聞けば、料理好きの心は静かに騒ぎ出します。
草津駅最寄りの割烹料理店で、以前から気になっていたのが、カウンター10席ほどの小さな店「お料理まつ瀬」です。
席数が少ない店には、逃げ場がありません。料理も、空気も、所作も、すべてが真正面からこちらに向かってくる。
だからこそ、惹かれるのです。
お店は移転され、草津駅から商店街を南へ約11分。通り沿いに、凛とした輪郭でそこにあります。
派手に語らないのに、妙に記憶に残る佇まい。──そういう店は、たいてい強い。
予約は専用サイトからスムーズに取れます。コースの種類は公式Instagramに掲載。
余計な情報は削ぎ落とし、必要なものだけを差し出す。ここにも店の思想が滲んでいました。
今回は比較のため、以前訪れた「滋味康月」と同じ価格帯、税込8,000円の夜コースを、あえて昼にお願いすることにしました。
昼に夜のコースを食べる。これは、味だけでなく“店の設計思想”を読み取るための選択です。
あとは体調を整え、万全の状態でその瞬間を待つだけ。──食事は、準備の段階で勝負が始まっています。
デザートまで含めて全11品。
その中でも、胸の奥に楔のように残った三皿をご紹介します。


1. よこわと鰆漬けの刺身

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脂の乗ったよこわは、からしやポン酢が驚くほど合います。
旨みが明確で、言い訳がない。噛むほどに“海の温度”が立ち上がってくるようでした。
そして鰆の漬けにかかった甘酸っぱいソース。
刺身という完成された世界に、ほんの少しの異物感を差し込む。
けれど、それが不思議と調和し、最後には「この店、ただ者ではない」と確信させる。
一皿目から、こちらの心は静かに捕まります。


2. 八寸

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八寸とは、季節を盛る皿であり、店の美意識を暴く皿でもあります。
内容は酒のアテ。──それも、ただの“つまみ”ではありません。
他の料理も含め、全体が日本酒に最適化されている印象でした。
これは偶然ではなく、設計です。日本酒を中心に世界が組み立てられている。
そして、ずっと食べたかった赤ナマコ。
出会えた瞬間、私は心の中で小さく頷きました。
「今日は、当たりの日だ」と。


3. からすみと百合根の茶碗蒸し

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茶碗蒸しは、やさしい料理に見えて、実は隠しようのない料理です。
火入れ、出汁、香り、余韻。すべてが露骨に出る。
そこへ、からすみ餡の風味とコク。
派手に殴らない。けれど確実に、奥ゆかしく旨みを引き上げてくる。
さらに百合根が、甘く、ほどけるように入ってくる。
静かなのに、妙に艶がある。
──気づけば、箸が止まっていました。
店主は日本酒好きで、ペアリングも快く教えてくださいます。
迷わず楽しめるというのは、幸福です。
料理の味が、もう一段上がる。いや、上げられてしまうのです。
複数種いただいた中で「旨い」と感じた二本は、福島県の「楽器」と、岐阜のにごり酒「津島屋」。
飲み手の記憶に、静かに住み着く酒。
手元に置いておきたい──そう思わせる余韻がありました。

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そして草津駅まで歩く帰り道。
酔いの熱と、料理の余韻が、夜の手前の空気に溶けていきます。
“いい店の帰り道”には、言葉がいらない。そう思っていました。
──ただ、ここで一つ、予想外の影が差します。
店内はお洒落で、食事に集中できる誂え。料理も素晴らしい。
それなのに、なぜか居心地がよくありませんでした。
理由は特定できません。
ランチだったため、私たち以外のお客さんが酒を飲んでいなかったからなのか。
店内にBGMがなく、空気が剥き出しだったからなのか。
あるいは、客前でアルバイトを叱り続ける女性スタッフの声が、料理の余韻を冷やしてしまったのかもしれません。
味が良いだけでは、夜は完成しない。
料理が美しいだけでは、体験は完結しない。
外食とは、味覚だけでなく“空気”を食べる時間でもある──そう痛感しました。


夜のコースは、さらに上に3段階。最高で18,000円。
そして常連向けに、おまかせアラカルト3品4,500円というメニューもあります。
特別な食材に頼らず、技術だけで満足へ連れていく。
その腕は確かです。だからこそ、惜しい。


もし次に訪れるなら──今度は夜。
日本酒を真正面から受け止めるために、アラカルトで静かに再戦したい。
草津の街に残る“答え合わせの余白”。
「お料理まつ瀬」は、そんな一軒でした。

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