未来家計譚

高卒 ✕ 地方会社員でもできたリアル家計管理術

蔵の扉を開けた瞬間、日常が静まる——草津「馳走 とし藤」昼おまかせ

草津の街には、ときどき「静けさそのもの」を料理にして差し出す店があります。
草津駅から商店街通りを南へ約10分。人の流れから半歩だけ外れ、左の路地へ身を預けた瞬間——景色が切り替わります。蔵を改装した和食店、「馳走 とし藤」さん。ここは、日常の雑音を一度預けてから入る場所です。

夜のおまかせで三度、心を整えてもらいました。
そして今回は6年ぶり。しかも、当時は存在しなかった“昼のおまかせコース”(税込6,600円)。
「進化」を確かめる、というより——“再会”に近い感覚で扉を開けました。

薄暗い店内。カウンターとテーブル席が、過不足なく静かに並びます。
上品、という言葉が似合うのは相変わらず。けれどそれは、ただ綺麗という意味ではありません。
ここで過ごす時間は、食べるほどに姿勢が正され、呼吸が深くなる。上質とは、味覚ではなく「人間の輪郭」を整えるものなのだと、思い知らされます。

今回はデザートまで含めて全7品。
その中で、心を射抜かれた一品を中心に——記憶に刻まれた余韻を書き留めます。


1. 刺身盛合せ

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旬の食材を、最適な仕事で。
淡白なものから濃いものへ——その“順序”すら、味の物語になります。舌の上で、ページをめくるように味わいが深まっていく。

特に忘れられないのが、写真左上。
ポン酢のジュレの奥に、ひっそりと隠れていた ほたるいか
噛んだ瞬間の歯切れの良さ。次の瞬間、旨みがじわりと広がり、最後に“海の余韻”だけが残る。
主張は控えめなのに、気づけば視線も意識もそこへ戻ってしまう——そんな一口でした。

そして写真右上。平目のタタキに添えられた
驚いたのは、生臭さが一切ないこと。
濃厚なのに、重くない。深いのに、濁らない。
その旨みが舌に触れた瞬間、日本酒が「答え」として現れます。盃が進むのではなく、進まされる。そういう味です。


2. 澄まし汁

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出汁と食材の旨みが、真正面から迫ってきます。
丁寧な下処理が、季節の食材の輪郭を際立たせる。
派手ではない。けれど、この一杯があるだけでコースの格が決まる。
“静かに圧倒する”という言葉があるなら、まさにそれです。


3. 甘味

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「とし藤」さん名物の甘味は、選べます。
そして、すべて選ぶこともできる。この一言が、ずるい。
どれも丁寧で、どれも自信があるから言える選択肢。
組み合わせを楽しむ事もでき、食後に「満たされた」と言い切れる着地点が、最初から設計されているのです。


帰り際、店主が見えなくなるまで丁寧にお見送りくださいました。
最後の一礼までが、ひとつの料理のようでした。
上質な空間と料理は、胃袋ではなく“姿勢”に効きます。背筋が正されるのではなく、正したくなる。そういう力があります。

そしてもうひとつ、記憶に強く残ったのが——滋賀の日本酒 「七本槍」の生酒
濃厚で深い旨み。日本酒初心者の私たちでも「これは違う」と分かる明確さがありました。

普段は、コース料金より酒代が高くなりがちな私たちですが、今回は三種。
理由は単純です。料理が、きちんと料理として成立しているから。
お酒のアテに寄りかからない。寄りかからせない。
その潔さに、日本料理の「正しさ」を見せつけられた気がしました。

また、季節が変わる頃に。
この蔵の扉を開ける理由は、きっと、何度でも生まれるのでしょう。

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草津に潜む“静かな覚悟”──割烹「お料理まつ瀬」で日本酒と余韻を味わう

草津の夜に、ひとつ“気配の良い店”がある──そう聞けば、料理好きの心は静かに騒ぎ出します。
草津駅最寄りの割烹料理店で、以前から気になっていたのが、カウンター10席ほどの小さな店「お料理まつ瀬」です。
席数が少ない店には、逃げ場がありません。料理も、空気も、所作も、すべてが真正面からこちらに向かってくる。
だからこそ、惹かれるのです。
お店は移転され、草津駅から商店街を南へ約11分。通り沿いに、凛とした輪郭でそこにあります。
派手に語らないのに、妙に記憶に残る佇まい。──そういう店は、たいてい強い。
予約は専用サイトからスムーズに取れます。コースの種類は公式Instagramに掲載。
余計な情報は削ぎ落とし、必要なものだけを差し出す。ここにも店の思想が滲んでいました。
今回は比較のため、以前訪れた「滋味康月」と同じ価格帯、税込8,000円の夜コースを、あえて昼にお願いすることにしました。
昼に夜のコースを食べる。これは、味だけでなく“店の設計思想”を読み取るための選択です。
あとは体調を整え、万全の状態でその瞬間を待つだけ。──食事は、準備の段階で勝負が始まっています。
デザートまで含めて全11品。
その中でも、胸の奥に楔のように残った三皿をご紹介します。


1. よこわと鰆漬けの刺身

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脂の乗ったよこわは、からしやポン酢が驚くほど合います。
旨みが明確で、言い訳がない。噛むほどに“海の温度”が立ち上がってくるようでした。
そして鰆の漬けにかかった甘酸っぱいソース。
刺身という完成された世界に、ほんの少しの異物感を差し込む。
けれど、それが不思議と調和し、最後には「この店、ただ者ではない」と確信させる。
一皿目から、こちらの心は静かに捕まります。


2. 八寸

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八寸とは、季節を盛る皿であり、店の美意識を暴く皿でもあります。
内容は酒のアテ。──それも、ただの“つまみ”ではありません。
他の料理も含め、全体が日本酒に最適化されている印象でした。
これは偶然ではなく、設計です。日本酒を中心に世界が組み立てられている。
そして、ずっと食べたかった赤ナマコ。
出会えた瞬間、私は心の中で小さく頷きました。
「今日は、当たりの日だ」と。


3. からすみと百合根の茶碗蒸し

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茶碗蒸しは、やさしい料理に見えて、実は隠しようのない料理です。
火入れ、出汁、香り、余韻。すべてが露骨に出る。
そこへ、からすみ餡の風味とコク。
派手に殴らない。けれど確実に、奥ゆかしく旨みを引き上げてくる。
さらに百合根が、甘く、ほどけるように入ってくる。
静かなのに、妙に艶がある。
──気づけば、箸が止まっていました。
店主は日本酒好きで、ペアリングも快く教えてくださいます。
迷わず楽しめるというのは、幸福です。
料理の味が、もう一段上がる。いや、上げられてしまうのです。
複数種いただいた中で「旨い」と感じた二本は、福島県の「楽器」と、岐阜のにごり酒「津島屋」。
飲み手の記憶に、静かに住み着く酒。
手元に置いておきたい──そう思わせる余韻がありました。

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そして草津駅まで歩く帰り道。
酔いの熱と、料理の余韻が、夜の手前の空気に溶けていきます。
“いい店の帰り道”には、言葉がいらない。そう思っていました。
──ただ、ここで一つ、予想外の影が差します。
店内はお洒落で、食事に集中できる誂え。料理も素晴らしい。
それなのに、なぜか居心地がよくありませんでした。
理由は特定できません。
ランチだったため、私たち以外のお客さんが酒を飲んでいなかったからなのか。
店内にBGMがなく、空気が剥き出しだったからなのか。
あるいは、客前でアルバイトを叱り続ける女性スタッフの声が、料理の余韻を冷やしてしまったのかもしれません。
味が良いだけでは、夜は完成しない。
料理が美しいだけでは、体験は完結しない。
外食とは、味覚だけでなく“空気”を食べる時間でもある──そう痛感しました。


夜のコースは、さらに上に3段階。最高で18,000円。
そして常連向けに、おまかせアラカルト3品4,500円というメニューもあります。
特別な食材に頼らず、技術だけで満足へ連れていく。
その腕は確かです。だからこそ、惜しい。


もし次に訪れるなら──今度は夜。
日本酒を真正面から受け止めるために、アラカルトで静かに再戦したい。
草津の街に残る“答え合わせの余白”。
「お料理まつ瀬」は、そんな一軒でした。

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草津駅前、10食限定の“約束”──ホテルボストンプラザ草津びわ湖 プレミアランチの余韻

草津駅西口──人の流れと街の鼓動が交差するロータリーの中心に、“約束の場所”が佇んでいます。
それが「ホテルボストンプラザ草津びわ湖」。
先日、会社の新年会で宴会場を利用したときのこと。華やかな席の裏側で、料理だけが静かに主張してきました。
「これは偶然ではない。実力だ。」
そう確信した瞬間、私の中で再訪は“予定”ではなく“必然”に変わりました。
今回は、ホテル内ダイニングで提供される10食限定のプレミアランチコース(3,850円・税込)をレビューします。

予約はホテル公式サイトのフォームから。このプランの人気は本物で、平日を含めても2週間待ち。しかし、待つという行為は時に“期待”を磨き上げます。料理に会う前から、心が整っていく──そんな感覚がありました。
食前カクテル、前菜、パン、メイン、デザート、珈琲まで含めて全11品。その中から今回は、食後もなお余韻が離れない──リピートを誓わせる一皿をご紹介します。


甘鯛のポワレ 〜海老とマッシュルームのクリームソース〜

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甘鯛は、上品という言葉が似合う魚です。静かな甘みと、身のふくよかさ。そこに重ねられるのが、海老とマッシュルームの旨みを抱き込んだクリームソース。
このソースが、ただの“添え物”ではありません。主役の甘鯛に、もう一人の主役が現れた──そんな存在感です。
ひと口目でわかります。
「絡む」のではなく、「包み込む」。
甘鯛の旨みがソースに吸い上げられ、ソースの奥行きが甘鯛を押し上げる。互いが互いを引き立て合い、完成形へと着地していきます。
そして、決定打はここからでした。
皿に残るソースを前にして、パンを取らずにいられる人がいるでしょうか。私はできませんでした。
最後の一滴まで、まるで“証拠”を残さないように救い上げてしまいました。正直に申し上げますと──このソースだけでパスタを一皿食べたい。そんな欲望すら生まれる完成度です。

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演出もまた、ホテルの流儀が光ります。
香りをシャボン玉のように閉じ込めた食前のカクテルと前菜3皿は、アフタヌーンティーを思わせるテーブルで提供され、視覚から“非日常”が始まります。
さらに、ホテルならではのフロアサービスがその空気を後押しし、こちら側の背筋を自然と伸ばしてくるのです。
食材にはアワビ、牡蠣、ブランド牛のステーキ。満足度は高く、コースの設計から「10食限定」という言葉の重みが伝わってきます。
ただし、同じフロアにはサラダバイキング付きの一般ランチ利用の方もおられ、空気感は良い意味でカジュアル。グラスワインやスパークリングが軽く感じられたり、ステーキの火入れ、パン提供のタイミングなど、細部で気になる場面もありました。
しかし──それらを差し引いてなお言えます。
この価格で、この体験。
ホテルで“気軽に特別”を味わえる場所だと。
草津駅前で、ほんの少しだけ日常を格上げしたい日。
自分に小さなご褒美を与えたい日。
そんなとき、私はきっと季節を変えてまたこのロータリーの中心へ戻ってくるでしょう。

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朧のカウンターで、寿司が“物語”になる──草津の路地裏、静かな贅沢

草津駅から徒歩5分。
商店街の明かりとざわめきを背に、一本だけ国道側へ足を逸らした瞬間──空気の密度が変わります。
看板は控えめ。その店の名は、寿司割烹「朧(おぼろ)」。
朧という言葉が似合いすぎるほど、入口には余白があります。派手さはない。ですが、入った瞬間に分かるのです。
ここは“寿司を食べる場所”ではなく、“寿司が生まれる瞬間に立ち会う場所”だ、と。
私は以前、夜に二度訪れています。会席の席、そして私用の一席。
どちらも個室でした。店主の顔も知らないまま、料理の余韻だけを胸に帰った。
しかし、今日は違います。
カウンターに座るということは、料理ではなく「仕事」に向き合うということ。
職人の時間、その呼吸、その判断の連続に、こちらの覚悟も試されるのです。
滋賀は海なし県。琵琶湖はある。だが潮の香りは届かない。
それでも、朧の江戸前は豊洲を中心に全国からネタを仕入れると言います。
重要なのは鮮度だけではありません。魚は“状態”が日々変わる。
その変化に合わせ、切り方を変え、寝かせ方を変え、温度を整え、旨みを引き出す。
つまり寿司とは、素材の勝負ではなく「一瞬の最適解」を積み上げた結晶なのだと、目の前で教えられます。


今回いただいたのは、寿司メインの肴と寿司コース(税込7,700円)。
デザートと赤だしを含む全8品、握りは11貫に卵。
この中で、私の心を一段深く沈めた“感動の瞬間”がありました。

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握りが始まった瞬間、私は箸を置きました。
寿司は箸で食べてもいい。けれど、今日は手でいく。
つまみ、口へ運ぶ。
そのとき、シャリがほどける。ほどけながら、崩れない。
米粒が散るのではなく、舌の上で“解けていく”。
噛むたびに魚の旨みが波紋のように広がり、香りが遅れて追いついてきます。
ネタを乗せただけでは決して到達できない、シャリと一体化した握り。
美しすぎて、食べるのが惜しい。
しかし、口に入れた瞬間に物語が始まるのです。
ためらう時間すら、もったいない。
そして終盤。
この日、私を締めてくれたのは日本酒ではなく、口当たりの柔らかな日本酒スパークリング「紀土」。
泡があるのに、角がない。華やかに主張せず、握りの余韻を丁寧に抱きしめて、静かに次の世界へ運んでいく。
まるで、最後のページを閉じる指先が、異様に優しい小説のようでした。
誤解のないように言えば、いわゆる“高級ネタ”が並ぶわけではありません。
けれど、ここには鮮度以外の価値がありました。
切り方、包丁の入れ方、下処理、温度、握りの圧。
回転寿司との違いが見えるのではなく、“突きつけられる”。
満足とは値札ではない。仕事の密度が、満足を決めるのです。


入口すぐのカウンター6席。
平日の日中にもかかわらず、席は埋まっていました。年末のご褒美なのでしょうか、若い女性同士で席が埋まり、男性は私だけ。
ほんの少し、背筋が伸びます。カウンターは舞台。こちらも“観客”としての礼儀がいる。
けれど不思議なものです。
食事と会話が自然に流れる空間、そして大きなグラスでいただく白ワインが、その緊張をゆっくりほどいていきました。
気づけば、握りの頃には張りつめた空気さえ忘れ、ただ目の前の一貫に集中していました。
朧とは、はっきり見えないものではありません。
むしろ逆です。
食べ終えたあとにだけ、くっきり輪郭を持って残る“余韻”のこと。
静かな路地裏で、私は確かにそれを受け取りました。

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飲み放題の海で、溺れない大人になる夜──大津「butcher bar 十八」忘年会

ワイン好きにとって、ここは──危険なほど甘美な場所です。

「浴びるように飲む」という言葉が、冗談ではなく“現実”になる。そんな夜が確かにあります。

舞台は大津駅。改札を抜け、ロータリーの向かいへ。

街の喧騒のすぐそばに、ひっそりと火種のように灯っている店がありました。

butcher bar 十八(ブッチャーバー トッパチ)。名は肉バル。ですが、今夜の主役は肉ではありません。──グラスです。

忘年会。

一年を締めくくる席というのは、単なる飲み会ではなく、「自分の一年を誰と終えるか」を決める儀式でもあります。

だから私は、最初から設計していました。

予約したのは、時間無制限の飲み放題。

17:30から、ラストオーダーの22:00まで。税込4,400円。

時間に追われない、というだけで会話の質は変わります。人は、制限が外れた瞬間に本音を取り戻すからです。

そして、もう一つの仕掛け。

今年出会ったスパークリングの中で、忘れられない一本。

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クレマン・ド・ブルゴーニュ ブラン・ド・ブランを持ち込みました。

持ち込み料は 1本3,300円。

それでも私は迷いませんでした。乾杯の一口目は、その夜の格を決める。

たった数秒で、「ただの会」か「記憶に残る夜」かが分かれるからです。

泡が立ち上がる。

グラスが触れ合う音が、静かに合図になります。

「今年もお疲れさま」──その言葉の裏側にある、言い切れなかった疲れや、抱え込んだ葛藤までも、炭酸が洗い流していくようでした。

席に着くと、お通しのサラダ。

ところが、このサラダが侮れない。

おかわりは何度でも可能。

テーブルが寂しくならない。皿が空でも心が空にならない。

飲み放題の夜は、気づけば“グラスだけが走る”ことがあります。

この店は、それを許さない。静かに、しかし確実に、夜のバランスを整えてきます。

飲み放題のワインは 全16種類。

そして、ワインに寄り添うアテの数々。

誰かが選ぶ一皿が、誰かのグラスの答えになる。

「これ、この赤だな」

「いや、こっちの白でも勝てる」

そんな議論すら、いつの間にか“今年の総括”のように思えてくるのだから不思議です。

さらに今回、席は半個室。

壁がひとつあるだけで、人は正直になります。

笑い声の奥に、急に沈黙が混ざる。

そして──話は込み入った方向へ。

気づけば、人生相談の場になっていました。

仕事、家庭、身体、未来。

普段なら飲み込んでしまう言葉が、ワインの回転に合わせてほどけていく。

グラスが進むほど、言い訳が消え、核心だけが残っていきます。

忘年会とは、実は「一年分の感情の棚卸し」なのかもしれません。

そして当然のように、私のグルメ活動にはブーイングが飛んできます。

「また美味い店ばっかり行ってるな」と。ええ、行っていますとも。

その代わり──私は約束を背負うことになります。

「次はここに連れて行く」

「また企画しろ」

こうして私は、2026年も店を選ぶ楽しみがあると自分に言い聞かます。

未来の予定は、ときに“今日の罪悪感”を許す免罪符になります。

ただ、ここで終わらないのが大人です。

いくら飲み放題でも、無敵ではありません。

明日の出勤。体調。翌朝の自分。

そして何より、ワインの好みがはっきりしてきた今、私は思いました。

「飲める」ことが強さではない。

「止められる」ことが、余裕だ。

浴びるように飲める場所で、私は初めて、

自重できる大人になったという“静かな自信”に触れました。

この店は、ただ飲ませる店ではありません。

飲み放題の海で、溺れずに泳ぐ方法を──そっと教えてくれる場所でした。

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一人で回す店に、迷いはない──石山「クロワゼ」が示す“続く店の答え”

石山駅から徒歩5分。テナントビルの2階に、ひっそりと灯る小さなフレンチがあります。
店名は「クロワゼ」。席はカウンターのみ、わずか12席──けれど、その距離感こそが、この店の“体験価値”を最大化しているのだと、入った瞬間に気づかされます。

料理と客の間に、余計なものを置かない。空気さえも削ぎ落として、残るのは「香り」「音」「火」と「手仕事」。

この店は、フレンチを“食べる”場所ではなく、“目撃する”場所なのかもしれません。

本日は、ミシュラン星付き店で研鑽を積まれたというオーナーシェフの「カジュアルランチコース(税込3,300円)」をレビューします。結論から言えば、これは“試し”のコースではありません。価格設定の常識を、静かに裏切ってきます。

予約は電話。昼も夜もシェフお一人で切り盛りされているため、こちらからの配慮も大切です。私はランチ営業後の時間帯を狙って連絡しました。駐車場はありませんが、駅近なのでコインパーキングで十分に対応できます。このアクセスの良さも、店の選択肢を広げてくれます。

店内は黒と茶で統一された、引き算の美学。派手な装飾はありません。しかし、必要なものだけが揃っている。だからこそ、視線は自然と“手元”へ向かいます。
目の前で進む仕込み、火入れ、盛り付け──カウンターという舞台で、料理が完成していく過程をそのまま味わえるのです。

この日はデザートまで私たち一組のみ。まるで貸し切りのような時間でした。ワインを傾けながら、料理だけでなく“ライブ感”を楽しめる。これが、カウンターフレンチの醍醐味でしょう。

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そして肝心のコース内容。
「軽いランチだろう」と思っていた自分を反省しました。品数、構成、満足感──どれも“カジュアル”の枠に収まりません。驚くほどのコスパです。ワインメニューも充実しており、グラスワインの選択肢が豊富なのも嬉しいポイントでした。

魚や肉の火入れに、ほんのわずかな甘さを感じる場面はありました。ただ、それを差し引いても、総じて満足度は高い。むしろ、この価格帯でここまで出せるのか、という驚きの方が大きいのです。

夜はアラカルトで、一人でワインとアテを楽しむこともできるそうです。ここでふと、別の記憶がよぎりました。

草津のロンロガレージから独立が決まっていながらも、メニューや運用方針に迷いが見えた店主。

「何をやるか」ではなく、「何を捨てるか」──その決断がまだ定まっていないように見えたのです。

その点、2025年で8年続くクロワゼは明快です。

席数を絞る。動線を絞る。世界観を絞る。

そして、料理とワインにだけ集中する。

迷いを削ぎ落とした先に、“続く店の形”がある。

私はこの店を前にして、それが一つの解答なのだと思いました。

次回は、ワイン好きとフルコースで。ペアリングまで含めて、クロワゼの“完成形”を味わいたい。
静かなカウンターの上で、料理とワインが重なり合い、会話が少しずつ減っていく──
その瞬間こそ、きっとこの店の本領なのでしょう。

石山の2階にある、小さなフレンチ。
しかしそこで出会うのは、小さな満足ではありません。
日常を静かに塗り替える、“密度のある時間”です。

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草津スパニッシュバルプロモ──“隠れ家バル”で異国の夜に迷い込む

草津駅から、徒歩5分足らず。
たったそれだけの距離で、日常は──ふっと、異国にすり替わります。

外からは店の気配がほとんどしない三角柱の雑居ビル。視線を上げても、確信は持てない。
それでも、人は“知っている場所”へ吸い寄せられるものです。2階にあるのが 「スパニッシュ バル プロモ」。
ここは、草津の街角に紛れた「小さなスペイン」です。

入口はどこか頼りない。
正面なのか裏口なのか分からない、看板横の勝手口のような扉。エレベーターか非常階段で2階へ。上がってしまえば導線は明快で、迷うことはありません。
──むしろ、この“分かりにくさ”こそがいい。人気店がわざわざ隠れている。その事実が、期待を上げていきます。

扉の先は、薄暗い18席ほどの空間。
陽気な音楽が空気を弾ませ、店内モニターではサッカーが流れ続ける。
耳と目と匂いで、現実の座標が少しずつズレていく感覚があります。
そして、その熱を支えるように、女性スタッフさんが元気よく店内を駆け回る。混雑すら、ここでは“活気”という名に変わります。

この店の作法がひとつあります。
パエリアのように時間がかかる料理は、最初にまとめて頼んでおくこと。
そうすると、忘れた頃に“最高の頃合い”でやってくる。
コースはありません。だからこそ、ひと皿ひと皿が「自分で選ぶ物語」になります。

今回は注文した6品のなかから、リピート確定の3品を。

1. パエージャ・マリネーナ(Mサイズ)

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スペイン料理の王道、魚介のパエリア。
魚介のだしを、やや芯を残した米が吸い込んでいく──その設計が見事です。
コクがあり、香りが立ち、ひと口ごとに海が近づく。
今回はお腹が膨れてきた終盤に登場しましたが、関係ありません。
気づけば夢中で、皿は静かに空になっていました。

2. 牛モツのピリ辛トマト煮込み

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「ありそうで、なかった」ホルモンのトマト煮込み。
豆とオリーブも一緒に煮込まれていて、トマトソースはピリ辛。
ワインにもバケットにも、容赦なく寄り添ってきます。
一皿の中で“つまみ”と“料理”を両立してしまう、危険な美味しさでした。

3. ハモン・セラーノ(左)

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クセのない、とろける脂が魅力の白豚の生ハム。
熟成の力で旨みが凝縮され、噛むほどに輪郭が濃くなる。
派手ではない。けれど、確実に記憶に残る。
こういう一皿がある店は、強いです。

 

平日でも、オープンから予約客で満席。
調理とフロアを 2名で回している のには驚きました。
それでも店が回るのは、段取りと集中があるからでしょう。ここには、プロの呼吸があります。

今回は1軒目としてしっかり食事をいただきましたが、真価が出るのはむしろ 2軒目・3軒目。
気の合う仲間とタパスをつまみ、会話を肴にお酒を重ねる。
この店は「食事」だけでなく、「時間」を提供しているように思えます。

そして、初めてのシェリー酒。
ワインに比べると辛口でも食事との相性が難しく、主役になりにくい印象でした。
その一方で甘口は、デザートの代わりにすっと寄り添う。
食後酒として迎えると、夜がきれいに閉じていきます。

深夜まで営業しており、草津でこんなふうに“旅の続き”ができる場所は貴重です。

日常のテンションのまま扉を開けて、
気づけば、異国の熱に肩を預けている。
そんな夜が欲しくなったら──ここに寄港してみてください。

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