扉を押した瞬間、時間がゆっくりと流れはじめます。
栗東市手原。小さなフレンチ「ラリベリュ―ル」。
華美ではない。けれど、凛としている。私は、この空気に弱いのです。
昼の提供はただひとつ──「お昼のおまかせコース」7,260円(税込)。
口直しとデザートを含む全8品。珈琲または紅茶、自家製パン。
説明は簡素。ところが、皿が進むたび、世界は一段ずつ深くなる。
“本気の料理”は、言葉より前に、体温で伝わってきます。
私がこの店を愛する理由は、明瞭です。
美しい盛り付け。意表を突く組み合わせ。期待を越え続ける味。
そして何より、ご夫婦の柔らかな笑顔が、コースという檜舞台の緊張をほどいてくれます。
肩の力が抜けた時、味覚は一段と研ぎ澄まされる──私はそれを、ここで学びました。
ソムリエである奥様のワインは、香りだけで物語を運びます。
今回は持病の都合で香りを嗅ぐに留めましたが、グラスの向こうにある余韻まで確かに見えました。
次は必ず、ペアリングでその“先”を確かめに戻ります。
今日、心を奪った三皿
1. 鰆の低温グリル
半生。ふわり。つきたての餅のような柔らかさが、舌の上で静かにほどけます。
ビーツのほのかな酸が瑞々しさを引き締め、海と大地が一枚の皿で握手をする。
「火入れ」とは技術ではなく“矜持”だと、教えられます。
2. 鹿肉とフォアグラのパイ包み
臭みは影も形もない。噛むほどに旨味が立ち上がり、パイの香ばしさが高音を支える。
白イチジクをソースに重ねると、甘美な転調が起きます。
ひと皿の中で、秋がゆっくり深まっていくのです。
3. 鴨肉のスパイスロースト

厚みのある鴨が、噛むたびにスパイスのレイヤーを解放する。
ローストで甘みを引き出した玉ねぎのソースが全体を包み込み、
食欲は理性を追い越して、軽やかに駆け出していきます。
私と「ラリベリュ―ル」の物語
出会いは仕事でした。
私が担当していたテナント兼住居の共同住宅に、和食割烹の居抜きで入られるというお申し込み。
東京・青山の名店で修行を積まれたシェフ。ソムリエの奥様。地元での独立。
背景を伺った瞬間、私は“この店は伸びる”と直感しました。
一年ぶりの再訪は、異動のご挨拶を兼ねて。
気づけば所有者も変わり、私の職場の管理からも外れていました。
だからこそ、これからはただ一人の客として、純粋に“好き”を確かめに行ける。
それが、嬉しいのです。
──非日常の感動に、確かな保証を。
気軽な価格帯ではありません。けれど、ここには丁寧な手仕事と誇り高い味、そして心を解くもてなしがあります。
ワインを愛する友と、あるいは自分への節目のご褒美に。
栗東・手原の小宇宙「ラリベリュ―ル」で、静かに心が躍るランチをぜひ体験してください。
























