未来家計譚

高卒 ✕ 地方会社員でもできたリアル家計管理術

緊張をほどくフレンチ。栗東手原「ラ・リベリュ―ル」で非日常の二時間を

2026年1月22日

今シーズン最大級の寒気が、日本列島の輪郭をなぞるように押し寄せました。滋賀県の湖南地域でさえ、珍しく薄っすらと雪が積もり、世界は一瞬だけモノクロームに染まります。出発前、私は電車の運行情報を何度も確認していました。遅延や運休という文字が、今日の予定を静かに脅かしてくる——そんな緊張を抱えたまま。

けれど、乗り継ぎのため草津駅に降り立った頃には、雪の気配は嘘のように消えていました。足元は乾き、空は澄み、胸の奥に溜めていた不安だけが、行き場を失ってほどけていく。冬は時に、こちらの心の温度まで測ってくるものです。

手原駅から店までは徒歩10分。頬を刺す冷気の中を歩くほどに、今日のメニューへの期待は熱を帯び、鼓動が少しずつ早くなっていきます。扉を開けた瞬間、暖かな空気が肌を包み、視界がやわらかくほどける。シェフとソムリエの奥様、そして今年から勤め始めた新人の男性スタッフが、笑顔で迎えてくださいました。

その笑顔は、料理の序章でした。

今回訪れたのは、季節ごとに足を運ぶと決めている「ラ・リベリュール」。冬の訪れを“確認しに来た”というより、冬という季節に心を預けに来た——そんな感覚です。

いただいたのは「お昼のおまかせコース」7,260円(税込)。自家製パン、デザート、食後の珈琲または紅茶まで含む全10品。しかも、この店は不思議なことに、品数が多いだけで満足させるのではなく、一皿ごとに“物語”を置いていきます。今回はその中でも、胸の奥に残り続けた“感動の3皿”をご紹介します。


1. 白子のソテー スパイスソースとレモンオイル

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表面はカリッと、そして中はとろり。白子という食材が持つ官能性が、火入れによって最大限に引き出されていました。そこへグリーンソースが重なる瞬間、味覚の地平線が広がります。さらに爽やかなレモンオイルが全体を締め、印象はどこかグリーンカレーの趣。刺激と余韻が共存し、パンが自然と進む——皿の上のソースを残すことが、もったいなく感じるほどでした。

2. 白身魚のパイ包み焼き キノコのソース

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ラ・リベリュールの料理は、口に入れた瞬間に分かります。“手の込んだ料理”という言葉が、ただの説明ではなく、体験として伝わってくる。パイの香ばしさ、白身魚の繊細さ、キノコのソースの深み。味と食感の設計が緻密で、ワインを一口合わせるたびに、感動が静かに更新されていきます。食べるという行為が、ここでは“確信”に変わるのです。

3. 猪肉のソテー 自家製干柿添え

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この日、猪肉を選べたことは、小さな幸運でした。甘い脂の旨みと、締まった肉質。野性味はあるのに、荒々しさではなく、品格として仕上がっている。添えられた自家製干柿は、ソースとして溶け込みながら、そのままでもワインのアテとして成立する存在感。甘みが孤立せず、肉と酒の間に橋を架ける——そのバランス感覚に、思わず唸ります。


この日は他の予約がなく、店内は貸切のような静けさでした。そんな空間でいただく、食前のスパークリング。しかも、シェフからのご馳走です。心がほどける音が、確かに聞こえました。

その心遣いに応えるように、私は料理ごとにグラスワインを注文し、ペアリングを楽しみます。料理が語り、ワインが返す。言葉にせずとも会話が成立する——それが、良いペアリングの条件なのだと思います。

そして食後酒として、ブランデーとラム酒を一杯ずつ。アルコール度数の高いお酒とデザートが重なったとき、甘さの輪郭は変わり、香りの奥行きは増していきます。世界は、まだ広げられる。そう告げられた気がしました。

居心地が良すぎて、会話に花が咲きます。気づけば時間は静かに溶け、帰り際には皆さん総出でお見送り。姿が見えなくなるまで手を振り続けてくださり、私もまた、見えなくなるまで手を振り返す。

——次に訪れるときは、春。

冬の夜気に背中を押されながら、私は小さく誓いました。季節は巡り、またこの場所で、人生の余白を味わうために。

 


2025年10月30日

扉を押した瞬間、時間がゆっくりと流れはじめます。
栗東市手原。小さなフレンチ「ラリベリュ―ル」。
華美ではない。けれど、凛としている。私は、この空気に弱いのです。

昼の提供はただひとつ──「お昼のおまかせコース」7,260円(税込)
口直しとデザートを含む全8品。珈琲または紅茶、自家製パン。
説明は簡素。ところが、皿が進むたび、世界は一段ずつ深くなる。
“本気の料理”は、言葉より前に、体温で伝わってきます。

私がこの店を愛する理由は、明瞭です。
美しい盛り付け。意表を突く組み合わせ。期待を越え続ける味。
そして何より、ご夫婦の柔らかな笑顔が、コースという檜舞台の緊張をほどいてくれます。
肩の力が抜けた時、味覚は一段と研ぎ澄まされる──私はそれを、ここで学びました。

ソムリエである奥様のワインは、香りだけで物語を運びます。
今回は持病の都合で香りを嗅ぐに留めましたが、グラスの向こうにある余韻まで確かに見えました。
次は必ず、ペアリングでその“先”を確かめに戻ります。


今日、心を奪った三皿

1. 鰆の低温グリル

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半生。ふわり。つきたての餅のような柔らかさが、舌の上で静かにほどけます。
ビーツのほのかな酸が瑞々しさを引き締め、海と大地が一枚の皿で握手をする。
「火入れ」とは技術ではなく“矜持”だと、教えられます。

2. 鹿肉とフォアグラのパイ包みf:id:h1419010482:20251108184543j:image

臭みは影も形もない。噛むほどに旨味が立ち上がり、パイの香ばしさが高音を支える。
白イチジクをソースに重ねると、甘美な転調が起きます。
ひと皿の中で、秋がゆっくり深まっていくのです。

3. 鴨肉のスパイスロースト


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厚みのある鴨が、噛むたびにスパイスのレイヤーを解放する。
ローストで甘みを引き出した玉ねぎのソースが全体を包み込み、
食欲は理性を追い越して、軽やかに駆け出していきます。


私と「ラリベリュ―ル」の物語

出会いは仕事でした。
私が担当していたテナント兼住居の共同住宅に、和食割烹の居抜きで入られるというお申し込み。
東京・青山の名店で修行を積まれたシェフ。ソムリエの奥様。地元での独立。
背景を伺った瞬間、私は“この店は伸びる”と直感しました。

一年ぶりの再訪は、異動のご挨拶を兼ねて。
気づけば所有者も変わり、私の職場の管理からも外れていました。
だからこそ、これからはただ一人の客として、純粋に“好き”を確かめに行ける
それが、嬉しいのです。


──非日常の感動に、確かな保証を。

気軽な価格帯ではありません。けれど、ここには丁寧な手仕事誇り高い味、そして心を解くもてなしがあります。
ワインを愛する友と、あるいは自分への節目のご褒美に。
栗東・手原の小宇宙「ラリベリュ―ル」で、静かに心が躍るランチをぜひ体験してください。


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