石山駅から徒歩5分。テナントビルの2階に、ひっそりと灯る小さなフレンチがあります。
店名は「クロワゼ」。席はカウンターのみ、わずか12席──けれど、その距離感こそが、この店の“体験価値”を最大化しているのだと、入った瞬間に気づかされます。
料理と客の間に、余計なものを置かない。空気さえも削ぎ落として、残るのは「香り」「音」「火」と「手仕事」。
この店は、フレンチを“食べる”場所ではなく、“目撃する”場所なのかもしれません。
本日は、ミシュラン星付き店で研鑽を積まれたというオーナーシェフの「カジュアルランチコース(税込3,300円)」をレビューします。結論から言えば、これは“試し”のコースではありません。価格設定の常識を、静かに裏切ってきます。
予約は電話。昼も夜もシェフお一人で切り盛りされているため、こちらからの配慮も大切です。私はランチ営業後の時間帯を狙って連絡しました。駐車場はありませんが、駅近なのでコインパーキングで十分に対応できます。このアクセスの良さも、店の選択肢を広げてくれます。
店内は黒と茶で統一された、引き算の美学。派手な装飾はありません。しかし、必要なものだけが揃っている。だからこそ、視線は自然と“手元”へ向かいます。
目の前で進む仕込み、火入れ、盛り付け──カウンターという舞台で、料理が完成していく過程をそのまま味わえるのです。
この日はデザートまで私たち一組のみ。まるで貸し切りのような時間でした。ワインを傾けながら、料理だけでなく“ライブ感”を楽しめる。これが、カウンターフレンチの醍醐味でしょう。




そして肝心のコース内容。
「軽いランチだろう」と思っていた自分を反省しました。品数、構成、満足感──どれも“カジュアル”の枠に収まりません。驚くほどのコスパです。ワインメニューも充実しており、グラスワインの選択肢が豊富なのも嬉しいポイントでした。
魚や肉の火入れに、ほんのわずかな甘さを感じる場面はありました。ただ、それを差し引いても、総じて満足度は高い。むしろ、この価格帯でここまで出せるのか、という驚きの方が大きいのです。
夜はアラカルトで、一人でワインとアテを楽しむこともできるそうです。ここでふと、別の記憶がよぎりました。
草津のロンロガレージから独立が決まっていながらも、メニューや運用方針に迷いが見えた店主。
「何をやるか」ではなく、「何を捨てるか」──その決断がまだ定まっていないように見えたのです。
その点、2025年で8年続くクロワゼは明快です。
席数を絞る。動線を絞る。世界観を絞る。
そして、料理とワインにだけ集中する。
迷いを削ぎ落とした先に、“続く店の形”がある。
私はこの店を前にして、それが一つの解答なのだと思いました。
次回は、ワイン好きとフルコースで。ペアリングまで含めて、クロワゼの“完成形”を味わいたい。
静かなカウンターの上で、料理とワインが重なり合い、会話が少しずつ減っていく──
その瞬間こそ、きっとこの店の本領なのでしょう。
石山の2階にある、小さなフレンチ。
しかしそこで出会うのは、小さな満足ではありません。
日常を静かに塗り替える、“密度のある時間”です。



