滋賀・大津。石山駅から徒歩15分ほど、瀬田唐橋のたもとに静かに佇む「炭火割烹 蔓ききょう」は、琵琶湖の恵みと山のジビエを、実に端正なかたちで味わわせてくれる一軒です。
大正二年に建てられた蔵を改装した空間には、ただ古いだけではない、時間の厚みがあります。その積み重ねまでもが、ここでの食体験に確かな奥行きを与えているように感じられます。
店で扱われるのは、契約する滋賀のハンターから届くジビエ、琵琶湖の四季を映す湖魚、淡海地鶏、そしてこだわりの野菜など、いずれも顔の見えるつくり手から託された食材ばかりです。
素材の背景にまできちんと物語がある。そんな誠実さが、この店の魅力をより一層際立たせています。
今回は、ランチで「ジビエと琵琶湖の恵み、厳選季節野菜コース」をいただきました。
予約は食べログからのネット予約が便利です。
ランチメニューは、基本セットが税込2,750円で、選ぶメインによって追加料金が変わる仕組みです。今回はカウンター席を予約しました。
デザートを含む全8品のコースの中から、とりわけ心を動かされた3皿をご紹介します。

まず一皿目は、お刺身です。
穴子、鰆、のどぐろという顔ぶれで、穴子は湯引き、鰆とのどぐろは皮目を炙り、ほどよい塩味でいただきます。正直、ジビエを目当てに訪れた店で、ここまで刺身に感動するとは思っていませんでした。
火入れは実に絶妙で、穴子の半生ならではのふわりとした食感、そして鰆とのどぐろに宿る脂のなめらかさには、思わず唸らされます。

二皿目は、天ぷらです。
薄衣で軽やかに仕立てられ、油も実に端正です。山菜と肉厚の椎茸が、サクッとした心地よい食感とともに供されます。
なかでも椎茸は、まるで肉を食べているかのような満足感があり印象的でした。ややほろ苦いコゴミとセリは、日本酒との相性も見事で、杯が自然と進みます。


そして三皿目は、滋賀県産いのししと琵琶湖天然大鴨(半身)の炭火焼きです。
いのししは、いわゆる獣臭さとは無縁で、上品な脂の甘みと繊細な肉質が際立ちます。力強さがありながら、どこか洗練されてもいる。そんな贅沢な満足感があります。
一方相方が注文した大鴨は、まさにジビエの醍醐味そのものです。
半身という迫力あるボリュームもさることながら、弾力のある肉質は、噛みしめるたびに旨みが押し寄せてきます。さらに、鴨のハツ、砂ズリ、レバーまで添えられており、一皿の中で豊かな表情を楽しめる構成になっています。
この店の魅力は、ほとんどの食材を炭火で焼き、塩でいただくという潔いスタイルにもあります。
それは技巧を誇示するためではなく、素材そのものが持つ力を、静かに、しかし確実に際立たせるための引き算なのだと思います。
ひと皿ごとに、滋賀という土地の豊かさと、生産者への深い敬意が感じられる構成でした。
日本酒は、滋賀の上原酒造の銘柄が充実しています。
今回お任せでいただいた「杣の天狗 純米吟醸」は、にごり生酒らしいやわらかな口当たりと、花を思わせる華やかな香りが印象的でした。思わず、手元に一本置いておきたくなるような存在感のある一本です。

食事の提供テンポも良く、お酒を楽しみながらでも滞在時間は1時間30分ほどでした。
過不足のないリズムで料理が運ばれてくるため、ランチとしても非常に満足度の高い時間になります。
少しだけ背筋を伸ばしながら、それでいて肩肘は張らず、本物の味と静かに向き合う。
そんな時間を求める方にこそ、この「炭火割烹 蔓ききょう」は深く刺さる一軒だと思います。
個人的には、定期訪問を確信した店となりました。


